20代の頃
私は森茉莉の本を何冊何冊も 熱心に読んでいた。
10代に行ったベニスの運河の色を
コカコーラのガラス瓶の色であったと話したり
風呂もないアパートの 狭い一部屋でする料理の
目玉焼やオムレツでさえも
その色や 味を語る「贅沢貧乏」
森鴎外の娘として生まれ
良いものを沢山見て育ち
独特の審美眼を身につけた
変な少女の様なおばあさん。
今日 私は
冷蔵庫に残っていた茄子を素揚げした。
それに辛子醤油をかける。
それを見ながら 色を 醤油との相性を
頭の中で思っている自分に気がつく。
引っ越しの慌ただしさの中で
無くしてしまった森茉莉の本。
でも 二十歳の私に染み付いた森茉莉は
簡単には消えないほどの
シミとして残ってしまった。