21号台風の六日間の停電で
私は一冊の小説を読んだ。
一ヶ月程前に
東山彰良(ひがしやまあきら)という
初めて聞く名前の小説家が
その時に紹介されたのが「流(りゅう)」
直木賞受賞作。
東山彰良のインタビューの話がおもしろく
Amazonで中古本「流」を少し前に買っていた。
暗い中で私はその本を読み始めた。
LEDの懐中電灯をページに照らして。
『1975年、台北。
内線で敗れ
台湾に渡った不死身の祖父は殺された。
誰に、どんな理由で?
無軌道に過ごす
17才の葉秋生(イエチョウシエン)
は、自らのルーツをたどる旅にでる。
台湾から日本、
そしてすべての答えが待つ大陸へ。
激動の歴史に刻まれた
一家の流浪と決断の奇跡を
ダイナミックに描く一大青春小説』
と表紙に書かれたあらすじ。
テレビもパソコンも使えない。
携帯ラジオしか聴くものがない。
そのような中で
主人公や登場人物の魅力あるキャラクター
スピーディーなストーリー展開
猥雑な当時の台湾の下町
青春時代の切ない恋人との別れ
そして誰が祖父を殺したのかという謎解き。
豊かな作者の語彙で綴られたその小説は
何もする事がない暗闇の中で
どんどんと進んで行った。
面白い、実に面白い。
停電の三日目。
まだ 表が薄暗い夕方
その本を読んでいる時に
私は経験した事のない不安感に襲われた。
体と顔に急に汗が吹き出て
どこにも居場所がない様な 強い不安感。
実力を感じるその小説のストーリーは
明るさに慣れた私が暗闇で読むには
余りにも混沌としたものだった。
ページを閉じ 夕ご飯を食べた後
私は夫に「明日 発電機を買いに行こう。
もう暗闇は嫌だ」と言った。
次の日の
発電機で明るく照らされた小屋の中。
「ホッとした」と言うのが偽りのない気持ちだ。
停電が終わった数日後
私は残りの「流」を読み終えた。
「おもしろいよぉ」と誰彼無しに勧めたい。