蛍が闇の中をすー、すーっとはかなげに飛び、コマドリが鳴き、山は白い蒸気で中ほどからは姿を見せない。
木や花や,山の中で生活する動物達の匂いが、しっとりとした空気に包まれて漂っている。
3年前に植えた黒すぐりの木に,今年初めてたわわに実がついた。高さ50cmにも満たない低い木に、深い紫色、オレンジ色、淡い緑色等。
葉の形もかわいい。
この実が名前の通り黒くなる頃には、全部鳥の餌になっているだろうと思っていたら、そのとおりなった。
雪が融けてしばらくすると,釣り鐘状の白い,口のあたりがピンクのなんとも可愛い花が咲く。それがアカモノ。
そして今の季節になると、小さな赤い実が地をはうようになる。食べると淡い甘さがある。この実も今年は豊作だ。
「これをジャムにしなくてもいいよね。鳥か鹿でも食べるだろう」と、面倒なのを鹿や鳥を口実にして作らない。
小屋のまわりの花々。今年やっと咲いた赤い花。朝起きたらスッカリ誰かさんが食べていた。
白い小さな花が咲くクジャクソウ。伸び始めた柔らかい時に,誰かさんが食べていた。
お隣の奥さんが楽しみに植えられたアジサイの木。道沿いに並んだそのアジサイの葉も花芽も、しごいたように誰かさんが食べていた。
月の光に照らされた山里。
そこに咲く花々。それをムフムフしながら食べる誰かさん。
花は愛でるもの。でも、誰かさんにとっては食べるもの。