高校の教科書に載っていた堀辰雄の「大和路」の中に馬酔木(あしび)は出て来る。奈良の辺鄙な村にある浄瑠璃寺にこの花は咲いていると、その本の中に書かれていた。
それから数年後に私は浄瑠璃寺に行った。勿論、この馬酔木に会う為である。
浄瑠璃寺に感動する事もなく、馬酔木の花を見た記憶もない。寺の前の無人の野菜売り場で柿と椎茸を買った。だから、秋に行ったのだろう。馬酔木の花を覚えていないわけだ。
今、馬酔木は私のまわりの山に自生している。近くで見ると釣り鐘状の花が連なり何ともかわいい。
標高500mのここでは、梅も桜も桃も同じ時期に咲く。どの木も雪に痛めつけられ,枝が折れたり,花が小さかったりしている。この梅もその例にもれず樹形のバランスが非常に悪い。
「花だけ写して下さいよ」と頼まれたのでそうしたのだけれど。「これでいいですか?」
毎年鮮やかなピンクの花を咲かせる。桜なのか,桃なのか?。調べてみた。どうも「はなもも」らしい。淡い桜の木にこの濃いピンクが重なり、遅い春を知らせている。
思いがけない花との出会い。樒(しきみ)にこんな花が咲くなんて。
2mはある木に艶々とした葉が繁る。そこにオフホワイトの花が咲き、蕾が次を待っている。この花の傍でお弁当を広げ、お酒を飲み,花見をしたいと思う人は少ないだろう。
仏様の木として存在している樒。静かな花である。