朽木は山の中の村で県境は京都と福井に接している。
今、「鯖街道」と言えば国道367号線を指すが、本来の鯖街道は朽木の険しい山の中を通り京都まで。それは何本かあった。
京都は海から遠く,昔、海の魚が手に入りにくかった。若狭の海でとれた鯖にたっぷりの塩をし、若狭の人はそれを担いで京都までの最短距離を朽木の山道を急いだ。京都に着いた頃には鯖にちょうどいいあんばいに塩がまわった。それを使って京都の人はめでたい時には鯖寿司を作った。よく知られた話である。
その険しい山に小浜から朽木まで1車線の林道が平成15年に完成した。
林業が低迷している現在、林道としての役目は果たしておらず、よく言われる無駄なインフラ工事の見本のような道だ。
しかし、この展望。遥か京都の山々、小浜の日本海まで見渡せるこの景色。四季を問わず旧鯖街道を歩くハイカーがこの林道を利用して小入谷峠にやって来る。ちょっとした観光道路だ。
若狭と朽木の分水嶺、それが小入谷(おにゅう)峠だ。
平良から小入谷峠まで車で30分。
途中でアスファルト舗装が途切れたり、ヘアピンカーブをカーブミラーを頼りに曲がったり、降りて来る車と離合で苦労して夫が車を運転している間、私は秋の紅葉のゴージャスな山々を堪能した。山の向こうに山があり、その又向こうに山がある。その山が紅葉し、遠くの山は淡い水灰色に霞んでいる。
小入谷峠に着くと先客は何組もいて、お弁当を食べたり、遠くに霞む日本海を眺めたりしている。
昔、鯖を京で売ってこの峠に辿り着いた若狭の人達は、遠くに霞む海を見て「ああ、やっと帰って来た」と安堵した事だろう。足取りは軽やかに、速くなったに違いない。
見回せば360度山又山。「悩みがある時はここにくればいいね」と言うと、「あんたに悩みなんてあるの?」と言う顔をして夫は私を見た。
海を見れば、船に乗りあの水平線の彼方に行ってみたい。山を見れば、あの山の向こうには何があるのか。峠から下を見れば何故か懐かしい人の気配を感じる。
次はこの峠を下り、若狭の地小浜に行ってみたいと思う。