朝起きると、雪の上に何かの動物の足跡がついてる。村人にテンの足跡だと教えてもらう。小屋の横の橋の近くをヒョコン、ヒョコンと飛んでいたあのテンかも知れない。鹿の歩いた後もある。昼間に時たま鹿に会ったり、夕暮れ時に道路脇で狐がこっちを見ていたりはするが、大概は私達が小屋の中にいる夜に動物達は活動する。小屋の周りを取り囲む様に山が迫っている。その山の中にどれだけの動物達がいるのだろう。何時もどこかで見られている様な気がする。
冬は猟のシーズン。うちの集落にも猟師さんがいる。「鹿やイノシシは畑を荒らす害獣だ」という名分の元、休日になるとハンターの車が獲物を求めて行き来する。高度経済成長の頃、国の政策で落葉樹の山の半分程を杉林に変えた。木の実や果実が減れば、動物達が降りて来て畑の野菜や柿の実を食べるのは分かり切った事だった。動物達にとっても,村人にとっても何と不幸な事だと思う。日本は展望を持たない国なのだろうか。
アメリカを旅している時にインのテレビで「あなたの楽しみの為に動物を殺していいのですか?」というスポーツハンティングに対する動物愛護キャンペーンのコマーシャルがよく流れていた。害獣だと言われてもそれに反論する為の言葉を動物は持たない。「それは違うでしょう。人間達が私達の山を変えてしまったから食べるものに困ってるんです」と鹿やイノシシが言う事が出来たなら・・・。この地球上に何万とある生物の種の中で、偶然に、もの言える人間に生まれるチャンスにあずかった私は幸運である。