街では、朝な夕な帽子をかぶり、首にタオルをぶら下げ大勢の人が歩く。私もそうだった。街の散歩ルートは、自転車、テレビ、ゴミ袋等が捨てられた汚染された川に沿った遊歩道だった。こんな汚い川にもカワセミが住み着いていた。私も山を見たり，空を見たり，たまには川にいるナマズや鯉やフナ等を見ながら歩いた。
そして，この村に引っ越してからも私は歩き始めた。空気はいい，オゾンが一杯だ，川は澄み、勿論護岸工事もされていない。野鳥が飛び，頭上ではトンビがくるりと輪を描いている。しかし，何故か落ち着かない。４０分程の散歩ルートに400m程,両側が杉林の所がある。ここが恐い。イノシシや熊が飛び出して来るんじゃないか，猿が悪さをしに現れるんじゃないかと思い出すと，この400mが恐い。夫も村の人も呆れているけど，新聞にもたまに載ってるではないか，イノシシや熊に襲われた人が。杉の枝に積もった雪がドサッと言う音をたてて落ちる。「ドッッキ！」
村の人は「心身の健康の為に歩く」という事をしない。私が歩いているのを見て，「余程暇なんだ」とある日言われた。歩いている時に軽トラに乗った村の人が通り過ぎる。クラクションをプウァ〜ンと鳴らすのがここらの礼儀。「こんにちわ」「元気？」とかをそのプウァ〜ンで表す。
私は笑いながら手を振り「ええ，ええ、私は暇なんです」と心の中でいじけている。
