永い眠りから

土の中から
土の中から

朽木の民話集にも載っている壷。それがうちのお隣さんの床の間に鎮座ましましている。始めて見た時に余りの美しさと存在感に驚いた。

土を縄状にし,それを一段一段と積み重ねて形を作る手びねりの技法。無釉で堅く焼き締められた大きな大きな壷である。とても一人では持ちきれない。

明治2年、うちの小屋の裏を流れる針畑川の川向こう。尼寺の跡地の畑の中からこの壷は見つかった。中にあふれる程の古銭を抱いて。何故ここに埋められていたのか,こんなに深い山の村に。そんな事を想像するのも楽しい。お隣さんのご先祖はさぞやびっくりされただろう。御伽草子のここ掘れワンワンの由来もこんな出来事なのかも知れない。

高麗美術館でこれと同じ様な,同じと言っても過言ではない壷を見た事がある。室町、桃山の保存食用の龜だと書かれていた。ここに酒や醤油、味噌を保存していたそうである。土から産まれ、火で焼かれ、酒や味噌を守り,元気一杯働いていた壷。永い眠りから覚め,今は大きな家の床の間で居心地良さそうに座っている。昔の様に働きはしないけど、私に褒められて照れた様に笑っている。

そして、このお宅の名前の由来はこの壷から来ていると聞いた。

ここ掘れ,ワンワン
ここ掘れ,ワンワン